ブレーキング

ブレーキングはバイクの操作の中でも最も難しく、最も重要なテクニックです。

ブレーキの役割は主に二つあります。《減速》と《コーナリングのきっかけづくり》です。

減速はコーナーの手前でスピードを狙った速度まで落とすことです。そのためには、まずブレーキの持つ制動力を最大限に引き出せるようになることが重要です。

制動力が最大となるのは、タイヤがロックする寸前です。(ロックさせてしまうと滑るだけで制動力は低下してしまいます)ロック寸前でブレーキをコントロールするために必要なのは、どこまでブレーキをかけたらロックするか、ロックしたときバイクはどのような挙動を起こすか知ることです。

ブレーキングの練習に適しているのは砂利道や土の上のような滑りやすい路面です。練習に使うバイクは、できればオフロード車やスクーターなど、万が一転倒してもダメージが少ないものがおおすすめです。

まずは時速20キロくらいから、リアブレーキのみをグッとロックするまでかけます。この時、できるだけ車体は真っ直ぐ立てるようにします。左右どちらかに傾いていると、横滑りをしてしまいます。この時リアブレーキは、ジワッとではなく一気にガンッとかけると簡単にロックさせることができます。

リアブレーキはロックさせても、リアタイヤが進行方向に真っ直ぐ滑るだけなので比較的安心して練習ができます。何度も繰り返して、タイヤがロックしたときの感覚をまずは掴んでください。

次にフロントタイヤをロックさせる練習ですが、フロントブレーキのロックは即転倒に繋がってしまいますので、リアブレーキの時より10倍ぐらい慎重に行います。速度も10キロ以下、あるいはもっと低い速度から始める方が良いでしょう。

フロントの場合は、リアと違いたとえ車体が真っ直ぐであったとしても、ロックさせるとハンドルが右か左かのどちらかに切れ込もうとします。

ですので、フロントがロックした感覚があったらすぐに”パッ”と瞬間的にブレーキレバーを離します。

ブレーキレバーを離せば、バイクはすぐに直進性を取り戻しますので、細心の注意を払いながらトライしてください。

ブレーキをロックさせる感覚に慣れてきたら、車体を少し傾けたままリアをロックさせて後輪を横に滑らせてみたり(その際ハンドルが”逆ハン=カウンターステア”になる感覚が分かると思います)、また腰を思いっきり引いて(タンデムシートに座るぐらいお尻の位置を後方に持っていき、フロントの荷重が抜けた状態にする)、フロントブレーキを思いっきり握ってフロントタイヤをロックさせたままスロットルを少し開けて走る練習(フロントが滑ろうとするのをハンドルを意識的に切って調整しながら走る。倒しそうになったらすぐブレーキを離してください。)などを遊び感覚でたくさんこなすと、ブレーキングのテクニックが飛躍的に向上します。

タイヤがロックした時の挙動と対処法を知ることで、ロック寸前のブレーキングにも挑戦することができるようになります。ロック寸前のブレーキング(フルブレーキング)の練習は、繰り返せば必ず身についていきます。ただし、ブレーキングの練習を行うときは、絶対に安全そうな場所を選んで行ってください。いきなりコーナーを走って練習するのは大変な危険を伴います。

ところで、フロントブレーキとリアブレーキはどちらを先にかけるでしょう?

フロントブレーキ?リアブレーキ?それとも前後同時?

ブレーキング時に車体を安定させるためにはフロントブレーキをかけるよりも一瞬先にリアブレーキをかけます。リアブレーキをかけるとリアサスペンションが沈む方向に力がかかり、リアが沈んで車体が安定するからです。その後でフロントブレーキをかけると、あらかじめリアが沈んでいることでフロント側への過度のピッチング(ここではフロントが深く沈みすぎることを指します)を防ぐことができます。こうすることで、フルブレーキング時の車体姿勢が安定します。

ライディングポジションの項でも書きましたが、ブレーキレバーを握る指は、人差し指と中指の二本がけをおすすめします。四本がけや、人差し指と親指をグリップに残す三本がけ(OKグリップ)では、レバーを握る時に小指を使うことになります。小指をブレーキレバーを握るときに使うと、腕の外側の筋が張ってしまいます。すると体の構造上、肘の位置が上がってしまいバイクを寝かせ始める時に一瞬腕が突っ張ってセルフステアを阻害してしまいます。この一瞬のロスは、コーナー進入時の大切な場面において見過ごすことのできないほど大きなものです。

ただ、二本がけは四本がけや三本がけよりもレバーの根本に近いところを握ることになるため、握るのに力が必要になる(テコの原理)ので注意が必要です。

同様に、クラッチレバーも二本がけがおすすめです。理由は右手の場合と同じく小指をレバーの握りに参加させないためですが、左右の手で使う指の本数が違えば、コーナリングに関しても左右のバランスが崩れ、どちらかのコーナーに得手不得手が発生する恐れがあります。左右どちらのコーナーも同じ感覚で走れるようにするためには、左右とも二本がけの練習をする方が良いと思います。

ではブレーキの持つもう一つの役割、コーナリングのきっかけ作りについてです。

ブレーキをかけるとフロントに荷重が移り、それによってフロントフォークが縮み、キャスター角(路面に対するフロントフォークの角度)が立って、バイクが寝やすい姿勢になります。

そうやってブレーキングでフロントを沈め、ブレーキによってコーナー進入時の目標のスピードまで速度を落としたら、ブレーキをリリースする瞬間(フロントフォークが伸び上がろうとする一瞬)を狙ってイン側のステップに荷重します。最も基本的なコーナリングの方法は、このようにブレーキングと荷重移動のタイミングを使って寝かせるものです。

また、下り坂でアクセルを全閉にしている最中や、一定のアクセル開度のままで通過できるコーナーの場合など、フロントブレーキをきっかけに使いづらい時には、リアブレーキを軽くあてることで、フロントへ荷重を移し、そのきっかけを作ることができます。

リアブレーキはコーナリング中に使ってもバイクの姿勢変化が少ないので、スピードや荷重配分をコントロールするのに役立ちます。

ただし、リアブレーキは手よりも感覚の鈍い足先で操作しなければならないため、より繊細な操作を心がけることが必要です。

  1. 正しいフォームって?
  2. バイクの特性による違い
  3. ライディングポジション
  4. ブレーキング
  5. ステップ荷重
  6. スロットルワーク
  7. ニーグリップについて
  8. フェイントステア
  9. 目線と走行ライン
  10. 腹式呼吸と平常心
  11. タンデムランのコツ
  12. 暖機運転とストレッチ
  13. ブレーキの引きずり(2020年11月20日 追記)
  14. 走行ノート(2020年11月30日 追記)
  15. 精神のコントロール(2020年12月4日 追記)
  16. 尻荷重(2021年1月19日 追記)

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