目線と走行ライン
では、実際にコーナーを走りだす前に、これまで練習してきたテクニックをどのように当てはめていくかを考えていきます。
下の図は左コーナーの模式図です。
ですが、こんな絵にかいたようなコーナーというのはサーキットでは割りに見かけることが多いですが、一般の公道ではほとんど見られません。
公道では、もっと曲率が緩やかであったり、逆にもっとグルリと回り込んだコーナーの方が多いと思います。
しかも公道の場合は、対向車線があって、アスファルトの摩擦係数もサーキットより低くて、マンホールや白線など滑りやすい箇所が点在し、路面にはカント(横断勾配、サーキットではコーナーの内側から外側に向かって高くなるように勾配がつけられており、より高速で曲がっていくことができます)もついていないため、こんなキレイなラインを描くことはできません。
ですので、これはあくまでもコーナリングの組み立ての考え方だと思ってください。
①アプローチでできるだけアウト側に寄り、直線部分でグッとブレーキングをしてコーナーへ進入できる速度まで減速します。(赤矢印の区間でフルブレーキング)
②クリッピングポイント(コーナーで一番イン側に近づく部分)にバイクを向けるためにブレーキをリリースすると同時にイン側ステップへ荷重を載せ、バイクを倒し込みます(一次旋回=黄色い線の部分)
③それ以上バイクを寝かせるのを止める目的と、リアへの荷重移動によるトラクションの増加を狙ってスロットルをジワ開けします。そしてスムーズに、開ける方向へのみスロットルを開けていきます。(二次旋回=緑の線の部分)
④スロットルを大きく開けていくと自然にバイクが起き上がってくるので、コーナーのアウト側へ膨らみながら加速をしていきます。
コーナリングの基本はこの4つで成り立っています。いわゆる【アウト・イン・アウト】と【スローイン・ファーストアウト】の大原則です。
バイクを上手に操るためのコツは、”タイミング”と”スムーズさ”と”繊細な操作”です。①から②へ移る一瞬にタイミングを合わせること、②から③へとつないでいくときのスムーズさ、そして①~④すべての場面でバイクの挙動を感じながら行っていく繊細な操作。
最初は一箇所ずつバラバラでも構いませんので、それぞれの操作を入念に練習し、身体に覚えこませ、そして最後には一連の動作を滑らかにつなげるようになってください。
ライディングというのは『ラインに始まりラインに終わる』と言えると思います。
とは言っても、ラインをトレースすることを目的とするわけではありません。理想として思い描いたライン上の、『ある地点』を走っている時に、バイクがどんな姿勢でどれだけバンクしているか、またバイクの向きはどちらを向いているのか、そういったことをイメージしながら走り、実際に通った場所が最終的にラインとなって現れる、と思ってもらえると良いと思います。
『ラインは目的では無く、あくまでも結果です』
さて現実の道には、複数のR(曲率)で構成されている複合コーナーと呼ばれるコーナーや左右に切り返しが必要なS字コーナーなどがあります。
複合コーナーは、もし走り慣れている道でコースを覚えているならば、一つのコーナーと考えてラインを描いたりすることもできますが、初めての道でコーナーに入ってから思っていたよりも曲がりこんでいた場合などは、スロットルを戻したり、追加でブレーキングをしたり、さらにバイクをバンクさせてクリアしていくことなども必要になってきます。すべての複合コーナーに対処できる鉄壁のテクニックは存在しません。予想外の突発的な出来事が発生したときは、自分の持っている引き出しから、その都度使えそうなテクニックを選び、それを駆使して乗り切っていく以外にないのです。
S字コーナーは滑らかなラインでつないでいくことがセオリーです。単一のコーナーなら、一つ目のコーナーのクリッピングポイントへ到達したら、立ち上がりでスロットルを開けていく場面になりますが、S字ではそこはすでに次のコーナーへの進入となっているという意識で『立ち上がりでバイクが起き上がって、直立を通過してそのまま反対側へバンクさせる』という風にスムーズに動作をつなぐことが大事になります。
最も速いのは、操作もラインも”滑らかにつなぐ”ことができた時です。
コーナリングでは、目線も大切です。
バイクはライダーが見た方向へ進むようにできています。雨の中を走っている最中にマンホールを見つけ、よけようとしてマンホールを見たつもりが、まんまとマンホールを踏んでしまった、、、そんな経験がお有りではないでしょうか?
マンホールを避けたい場合は、マンホール以外のところを見ないといけません。見れば必ずそちらに行きます。つまり走りたいラインがあれば、そのライン上に目線を送っていけば良いということです。
目線はできるだけ遠くに送る必要もあります。走行中、ライダーは路面状況や障害物などの有無、コーナーの曲がり具合、前の車や後続車など様々な情報を収集しないといけません。集めた情報から予測をし、ラインを常に組み立てて走ることが求められます。できるだけ早めに情報を得て予測する時間を作るためにも、目線は遠くに送っておく必要があります。
とは言え、直前の路面も見なくてはいけませんし、ライン上の目標とするポイントも先へ先へと移していく必要があります。ライダーは全部の景色を目に入れながら、細部の確認や、設定したライン上の目標も同時に捉えるというとても大変な仕事をしなければなりません。
ちなみに、走行ライン上の見るポイントは、『ブレーキング開始ポイント→バイクを倒しこむポイント→クリッピングポイント→立ち上がりの目標とするポイント→次のコーナーへの進入に向かうポイント』といった感じになります。
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