尻荷重
尻荷重なんていう言葉をライディング理論で聞いたことはありませんが、バイクをリーンウィズで走らせるときにはこの感覚が確かに存在していると思います。
尻荷重とは『お尻で座っているシートに荷重を載せる』ということです。似た言葉にシート荷重というものがありますが、これは加速時にシートからリアタイヤへ荷重を載せトラクションを稼ぐ場面(ハングオフのフォームで乗っている時に太ももで荷重を載せている場合など)で主に使われる言葉だと思いますので、ここでは区別します。
尻荷重は、ブレーキングからコーナーへの進入時にかけて、つまりステップ荷重のタイミングで行います。
バイクのシートには30センチ程度の幅があります。例えば、少し腰をずらしてシートの右端や左端に荷重を載せれば、バイクは簡単にバンクさせることができます。
人間のお尻にもやはり30センチ前後の幅がありますので、右のお尻と左のお尻にしっかり荷重をかけることができれば、腰をずらさずセンターに座ったままで自在にコーナリングをする事が可能なのです。
左右のお尻へ荷重を載せるためのトレーニングとして、ヨガの『安定座』が役に立つと思います。やり方は、膝を左右に開いて座り両足のカカトを恥骨の前へ置き、腹式呼吸をしながら『山のポーズ』のように頭を天に向けて伸ばすようにします。この時、左右のお尻に均等に圧がかかるように意識をします。左右均等に圧が感じられるようになれば、バイクのシートの上で右・左のお尻への荷重をコントロールすることができるようになってきます。
尻荷重でバイクをコントロールするためにもう一つ重要なのは、前後方向の体の動きです。それは、直線では伏せ、ブレーキングから旋回にかけては上体を起こし、また加速に移る時は上体を伏せていく、という動きのことです。
直線で伏せる目的は、
- 空気抵抗を減らすため
- 重心を下げるため
- 前輪への分布荷重を増やすため
です。
ブレーキングではこの反対に上体を起こしますが、それには、空気抵抗を増し、重心を高い位置に上げ、前輪から荷重を抜いてお尻からシートへ荷重を載せ、なおかつ上半身は背骨を中心に左右へ自在に回転できるような姿勢を作るという目的があります。
『ステップ荷重』の項目でも書きましたが、荷重は『載せる』もので『踏んづける』というようなものではありません。ステップに踏んづけるような力を加えると、その反力で体は上方へ動いてしまい、上体はコーナーの外側へ逃げてしまってリーンアウトの姿勢になります。
荷重が最もかかっている状態というのは体の力がまったく入っていない時です。(寝ている人を動かそうとするとき、力がどこにも入っていないため逆に重くなるのと同じ)力が入っている時は、どこかで体を支えているため、重さは分散してしまいます。
体の力を抜き、曲がりたい方のお尻に重みを委ねる、尻荷重とはそんな感覚です。
ですが、尻荷重だけではコーナリングのきっかけとして弱すぎるというシーンもあります。
Uターンやシケインの切り返しなど、大きく一気に方向を変えないといけないとき、または高速コーナーやアクセルを一定で開けながら走っているときなど直進安定性が強く倒しこむのに大きな力が必要なのにもかかわらずブレーキングをきっかけに使うことができない場合などです。
このような場合、イン側のステップを一生懸命踏もうとしても、なかなかマシンは寝てくれず、どんどん変なところに力が入っていって困った状態になってしまいます。
こんな時は、倒しこむ一瞬手前のタイミングで、クッと外側のステップを踏みます。
水面に浮かんでいるボートに立っているところを想像してみてください。
肩幅ぐらいに足を開いて立っている時、もし左にボートを傾けたいと思ったらどうしたらいいでしょう?最初から左足に力を入れて踏みボートを傾けようとしてもバランスが崩れてぐらついてしまうだけでしょう。
ところが、一瞬右側を踏んでから左足に力を入れれば大きくボートを傾けることができます。これと同じく一旦倒したい方と反対のステップに軽く力を入れれば、曲がりたい方向のステップに大きな力をかけることができます。
尻荷重、前後の動き、そしてこの逆ステップ(仮)、習得すれば走りの幅が確実に広がります。安全に十分気を付けながら、練習してみてください。
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